連載小説:これが儚き夢ならばロックンロールに魂を捧ぐ 第19回

 ・アカル
オレは何も答えられなかった。あと二週間で二十八歳、もしギリギ
リまで死ななかったら、カート・コバーンと同じ運命をたどること
になる。
 自殺。そうだ。自殺だ。二十七歳と三百六十四日はもう目の前に
迫ってきていた。オレはどうするのだろうか。自殺をするのか?
ずっとずっと信じていたものが崩れ去る、オレはそんな世界は想像
もしていない。想像なんてしたくない。この世に絶対があるとする
ならば、それは俺が二十七歳で死ぬこと。 
 もし、自殺をしたら、オレはオレであり、オレの人生の終幕を迎え
られる。なぜなら俺はいま絶頂にハッピーだからだ。もし二十八歳
になってしまったら俺は俺じゃなくなる。でもコートニーとガキは
どうなるのだろう?自分勝手に好き勝手に生きてきた。しかし、い
ざ二十八歳が近づくとオレは今までそこまで深く考えもしなかっ
たことを考えなくてはならなくなる。大好きなコートニーは俺が死
んで欲しくないという。運命だったとしたら、俺は死ぬだろう。死な
なかったことなんて、考えられない。どうしてもそんな自分を想像
することができない。ガキの何も知らない寝顔を見ながらオレは悩
んだ。
 なあカート、お前もこんなこと考えたのか?お前はどうして自殺
したんだ? 
 ・ジョージ 
「カトウ君…」
教室の後方から俺達の話を聞いていたのか、
「続きを聞きたいか?ジョージ、シンタロウ。」
 カトウははじめて俺達の名前を呼んだ。
「なら話してやるよ」

 カトウは不気味な笑みを浮かべている。こわ。
「昔々。あるところに本当に馬鹿な男がいました。男は自分が二十七
歳で死ぬと確信してたのです。ロックンロールというなんでもない
音楽に傾倒し、愚かにも勘違いをしていたのです。自分は選ばれし
存在だ。自分はカート・コバーンになりたかったからです。男は望み
どおりロックスターになりました。そしていよいよ二十七歳になり
ました。その日は夕方から大雨でした。男は家族を乗せた車で交通
事故を起こしたのです。まさに予定通り、男は思いました。『事故死
も悪くない』と」
 ・アカル
 昔、ライブハウスの裏路地で、変な言いがかりをつけられて四人
組にリンチにあったことがある。
 右頬にストレートを見舞われ、ボディを喰らい、蹲った所を四人
掛りでボコボコ。気がつくとアスファルトに右頬をつけていた。着
ていたハノイ・ロックスのTシャツはビリビリ。本当に死ぬかと
思った。後にも先にもこんなに死ぬかと思うことなんてないと思っ
ていたが、今回はそれ以上だ。
 話したくも無いことを、思い出したくも無いことを話さなくては
ならない。
 事故死か。悪くない。
ガソリンが漏れて臭い。右足が運転席のシートに挟まって抜けな
い。大量の血が頭からは流れ出ている。横にはコートニーの後頭部。
金髪の髪の毛からは血が流れていて、金と赤のグラデーション。後
部座席のガキは無傷のようだ。
 いつの間にか雨が降り出していて、ザーザーザーザーオレの鼓膜
を揺らす。
 喫茶店を出たオレ達は帰宅の途についていた。どこでどうこう
なったのか、オレは思い出せない。でも現実はこの状況だ。ヘマっ
た。
 ザーザーザーザー。雨は止まらない。昼間は晴れてたのに。
 ガタガタガタガタ。オレは震えた。恐怖。オレの頭を過ぎった。
死の恐怖じゃない。コートニーの後頭部を見てオレは恐怖した。
声を出すにも胸がハンドルに圧迫されて声が微かにしか出ない。
「コートニー」
 蚊も鳴くような声でオレはコートニーの名を呼んだ。
コートニー!コートニー!何度も何度もオレは彼女の名を呼んだ。
コートニー!コートニー!コートニー!何度も何度もオレはコー
トニーの名を叫んだ。
 数えれば五十回位だろうか、やっとオレの声に反応したのかコー
トニーはこちらに向きなおした。コートニーの頭部からは大量の血
が流れ出ている。どうしてだよ。どうしてこんなことになっちまた
んだ。怖い。怖い。怖い!!!怖いよ!!!
畜生っ!畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜
生畜生畜生畜生畜生畜生畜生。畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生
畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生。畜生畜生畜
生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生。
 コートニー!!
おい!
エミ!
「アカル…」
力ない声でコートニーは微笑みながらオレに囁いた。
「やっと名前、呼んでくれた」
そう言うとコートニーは笑顔を向け、俺の耳元で最後の一言をオレ
に囁いた。 
[PR]
by agakun1 | 2014-12-26 13:01 | フリーペーパーPinhead連載小説
<< 連載小説:これが儚き夢ならばロ... こゝろに誓う。 >>